「え――っ、ありえなくないですか!?」
月曜日の朝、園に着いてすぐ開口一発。理世ちゃんの文句から始まった。 それは、彼女に日曜日のこと――つまり、I.Nさんが待ち合わせに来なくてゆうた君とデートすることになったと伝えたからだ。「まさかのブッチですか。信じられないっ」
理世ちゃんがめちゃくちゃ憤慨している。
「眞子先輩。ちょっとその男のプロフ、見せて頂いてもいいですか!?」
「これなんだけど」
ものすごい剣幕なので、私は断れずにLove Seaアプリを開いて理世ちゃんに渡した。
「あ――っ、やっぱり!」
「どうしたの?」
「I.Nさん、アプリ退会してます。急なブッチしたりする人ってワケアリが多いんですよ」
「ワケアリ?」
「ええ。例えば、奥さんや彼女がいるのに出会い目的で独身と偽ってアプリを利用して、それが伴侶にバレるパターン。それはもう、強制終了ですよ」
「きょ、強制終了…」
それは、離婚や別れが待っているということね。
「退会までやっているので、今回の場合は違うと思いますが、こういう人もいます。待ち合わせした女性が好みじゃ無かったら、平気でブッチしちゃうんです。あ、眞子先輩は綺麗だから、絶対大丈夫ですけど!」
「そっかぁ。やっぱりアプリで素性の知らない人っていうのは、怖いんだね」
胆に銘じておこう。
「すぐ退会する人って、意外に自分のSNSの方で連絡ができるようにしているから、多分連絡先突き止められると思うんですよ。ちょっと待っていて下さいね」
理世ちゃんは自分のスマートフォンを取り出し、スゴイ勢いで画面を打ち始めた。トトトト、タタタタ、と画面を高速タップする様子がすごい。一体何をしているのだろうかと、彼女が見せる百面相を近くで見守った。
「先輩、I.Nさんってこの人ですか?」
やがてなにか見つけたらしく、画面を差し出して来た。
「あっ! そう! この人
「それより先輩、婚活アプリでやり取りしている他の男性はどうですか? やりとり続いていますか?」「うん、。Takaさんは今度ご飯食べにいこうって約束して、来月七夕まつりが終わったら食事をしようと思っているの。玄さんは飲みに誘ってくれたから、場所を聞いて飲みに行こうかと」「へええ…!」理世ちゃんは嬉しそうだ。「眞子先輩がそんなに積極的に同時進行できるなんて、びっくりしました!」「あ、適度にやり取りしているよ。他愛もない話が多いけど。食べ歩き好きだからっていプロフィール見てくれているから、ご飯行こうってTakaさんが誘ってくれて。玄さんは丁度羽鳥さんに酷いお説教されたときに話聞いてくれたし、悪い人ばっかりじゃないのかな、普段繋がっていない分、逆に本音が言えたりするのかなって思ってる」「I.Nは論外ですけど、素性が解らないっていうのはそういう意味でも今の社会には必要なのかもしれませんね」「そうそう。理世ちゃんのお陰でI.Nさんの動向が知れたし、気を付けなきゃって改めて思った。本名はもう絶対に言わないし、相手の事をもっとちゃんと知ってから、自己紹介するようにする」「先輩…眩しいくらい純粋ですね。本当にI.Nに騙されなくて良かったです!」「そうだね。今は却ってすっぽかされて良かったなって思う。正直、犬のイベントなんか行ってもよくわからなかっただろうし、無理して相手に合わせるのはもう止める。これもいい経験だと思って次に生かすよ。理世ちゃんがいっぱいアドバイスくれるから助かってる。ありがとう」 このしっかり者の後輩のお陰で、I.Nさんのことを引きずらなくてすむ。 あのままだと、私が好みじゃなかったからだろう、とか、どこかで嫌な思いをさせてしまったんだ、とか、そういう風に自己否定につながる考えをしてしまっただろうから。「とにかく、残りの三人頑張って攻略しましょう!」「そんな…ゲームじゃないんだから」 愉快な後輩の言い方よ。「恋愛はゲームみたいなものですよ。上手くクリアして、晴れてお付き合いできるのですから」 成程、一理ある。「
Takaさんはプロフィール画像と全然違う人だった。 真面目で堅物そうなイメージは同じだけれど、体型の細さが全然違う。確かに彼の顔だけれども、プロフィール画像の三倍くらいは横幅がある。巨漢と言ってもいい。 髪の毛もオイルを塗りたくっているのか、てかてかしている。もしかしたら汗や脂なのかもしれない。 全体的によく見せるために修正した、とかそういうレベルではない詐称だった。「君がMさんだよね? うわあ、想像よりずっと綺麗! 素敵な女性だ!!」「あ、ありがとうございます」 熱量凄いから本人である事は間違いない。Takaさんだ。「さあ行こう!」 肩を抱かれる勢いだったけれど、流石に初対面でそれは遠慮したのか、彼は私の一歩先を歩き出した。エスコートをしてくれているのだと思う。 今日のお店は都内に新しくできたばかりの蓮見(はすみ)リゾートホテル内にあるレストランのディナーバイキング。場所がそんなところだから、初期設定の値段は結構高額だった。 一泊十万円以上するリゾートホテルの新たな試みとして、バイキングが発足されたばかりだ。今までの蓮見リゾートはバイキング等は一切やらなかったらしいから、ちょっとした話題になった。そんなディナーだから、一人一万五千円も値段が付いている。オープン記念に近隣で配られていたチラシ持参で三千円引きにして貰えたが、それでも一人一万二千円。飲み物は別途料金になるだろう。これは高すぎる値段設定。庶民の私にはおいそれと行けない場所だ。 滅多に立ち入る事の出来ないホテルの上層階で、美しい夜景を見ながら頂く食事。全ての席がゆったりとして、窓際に位置されている。この素敵な贅沢空間に、お客様は私とTakaさん以外、他に三組ほどしか入っていなかった。盛況しているようには全く見えない。それで、全然お客の入っていない穴場だと言われてしまったのだろう。別の意味で話題を呼んでいるらしいけど。 バイキングなので好きなものを取りに行き、改めてTakaさんと対面した。サラダとブランド牛肉、生サーモン、アクアパッツァなどを白いお皿に少しずつ取ったものを置いた。彼は専用の白いお皿にめいっぱい料理を乗せ
「こんばんは、羽鳥さん」 私に挨拶をしてくれた彼は、羽鳥聖也君のお父さんだ。コックの恰好をしてマスクを着けていたが、聖也君によく似た大きな瞳が特徴的なので、すぐにわかった。 そう言えば羽鳥恵里菜さんが『うちの夫は蓮見リゾートの料理長をしている』と自慢していたっけ。「こちらにお勤めだったのですね」「はい。以前は別の店舗勤務でしたが、このホテルが新規オープンしたので呼ばれたのです。いい食材をふんだんに使っているので贅沢なバイキングですから、先生もご堪能いただけると思います。デザートも美味しいですよ」「はい、ありがとうございます」 こんなところで知り合いにあうなんて。しかもTakaさんの連れと思われるの嫌だなぁ。全部で四組しかいないから、絶対見られてるよね。「聖也がいつも清川先生を褒めていますよ。幼稚園も楽しいと言っています。これからもよろしくお願いします」「はい、こちらこそ」「清川先生にお礼が言いたくて、お食事中につい声を掛けてしまいました。申し訳ございません。ごゆっくりどうぞ」 モンペと揶揄される彼女の伴侶とは思えないくらい丁寧な人だ。レストラン勤務の料理長ともなれば、忙しいのだろう。昨今の幼稚園参観や行事参加は、夫婦揃って来ることが増えている。しかし聖也君は殆どが母親の恵里菜さんだけの参加だった。 稀に夫婦で参加する時は借りてきた猫のように大人しいことから、恵里菜さんの本性を彼が知らない可能性がある。 今度の七夕まつりは夫婦揃って参加して欲しいな。恵里菜さん、きっと大人しいだろうから。「声をかけてくださってありがとうございます。お仕事頑張って下さい」 当たり障りない言葉をチョイスし、会釈してデザートコーナーへ向かった。料理はもういいや。食べるのしんどい。 専用のコーナーには色とりどりのデザートが並んでいた。どれも生の果物を使っていて、贅沢なスイーツに仕上げたものがずらりとこの空間を彩どっている。まるで宝石のよう。 撮影可能と書いてあったので、折角だからとスマートフォンで写真に収めた。どの
翌日。Takaさんと食事へ行った結果を理世ちゃんに報告した。「無いですね」 一言ズバっと頂きました。「ありえません。画像詐称も酷いし、性格も最悪なんて。まさかの大はずれでしたね」 酷い言い草だとは思うけれど、同感だった。アプリで通じた相手でなければ、一緒に食事へ行こうという気になれない人だったから。「ブロックしちゃいましょう」 理世ちゃんは私のスマートフォンをタタタと操作し、Takaさんをあっと言う間にブロックしてしまった。躊躇は一切せず。 いいのかな…。「とりあえず残り二人いますよね。頑張ってみてダメだったら次行きましょう。私の知り合いを紹介しますから!」「ありがとう。このままアプリ続けて大丈夫かな…」「婚活アプリあるあるなので大丈夫です。本名は伝えてないでしょ? ブロックしたって先輩が誰であるとか、わかりませんから。こちらに落ち度は一切ありません。宝くじ買って、大はずれしてガッカリしちゃったようなものです。気を取り直して行きましょう!」「理世ちゃんが居てくれるから安心だよ。ほんとに助かる」「とにかく、残りのゆうたさんと玄さんが、アタリかもしれませんから」 理世ちゃんの言う通り、ゆうた君はアタリかもしれない。玄さんは正直まだよくわからない人だけれど、他愛もないやり取りは交わすような仲になった。愚痴友みたいな感じ? 今度時間が合えば、飲みに行こうという約束をしてそのままだ。 今日は特に問題も無く一日が終了した。無事に一日を終えられる喜び――この平和が何より嬉しいと感じる今、私の心は重症だと思う。本気で今年度限りで退職しようかなと思ってしまう。 聖也君は今年卒園だから、今季だけ耐えればいいかもしれないけれど、今までの自信もプライドもぶち壊される勢いでの説教は、自分の中で消化しきれなくて心の中に沈下している。それを引きずりながら来年も仕事と思うと、不安に駆られるし憂鬱になる。うまくやっていける自信がなくなってしまった。 聖也君に罪はないから、今まで通り分け隔てなく接するつもりだけれど。 羽鳥さんが怖いからと言って聖也君を贔屓にするのは違うと思うし、私は絶対そんなことはしたくない。 久々に早く帰宅できたのでゆっくりお風呂に入ろうと思い、張り切って掃除をして湯を沸かした。 沸いたばかりの湯船にとっておきの薬剤を投入した。
あおいchanというのも気が引けるので、あおいさんと呼ぶことにしている。彼女に返信していると、Love Seaの方が着信を告げた。――元気?(玄) 一言、玄さんからだった。相変わらず愛想無い。――はい、元気ですᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ 玄さんはお仕事中?(M)――まあね。店が暇でしょーがない。(玄)――もうすぐ仕事で大きなイベントがあるので、それが終わったら飲みに行きますよ。再来週の週末にでも、玄さんのお店行きたいです( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )(M)――いや、俺の店はもういいよ(笑)多分この店もうヤバイ。だから違うとこ行こう。(玄)――Σ(•̀ω•́ノ)ノエッ だめですよ! ちゃんと店番しないと(ˉ ˘ ˉ; )(M)――店番(笑)ジャイ〇ンかよ(笑)(玄)――ジャイ〇ンが店番していたら、人気店になりますね!(M)――面白いこと言うなぁ。店が繁盛するなら、ジャイ〇ン雇いたいよ(笑)(玄) 玄さんって愛想無いと思っていたけれど、実はそんな事なくて短い一言が面白いなぁ。それにしても、ネコ型ロボットの国民的人気アニメなんか見ているのかな。園児の話に合わせるために、私も見ているけれど。 ホント、玄さんってどんな人なんだろう。 短いやり取りばっかりだけれど、なんとなく話も合うし、いい人なのかなーって思っちゃう。こういうのでコロっと騙されてしまうんだろうな、私みたいな単純人間は。――最近、モンペどう? 嫌がらせされてない?(玄) あ、気にしてくれているんだ。嬉しいな。 ――心配してくれてありがとうございます⸜(๑’ᵕ’๑)⸝ 今の所大丈夫です。次の週末が怖いですが( ´•д•`; )(M)――イベントでモンペとバトルするの?(玄)――違います! 実は・・・・(M) アプリの自分のプロフィールに『幼稚園教員をやっている』と既に書いているので、来週七夕まつりのイベントがあることや、当番に羽鳥さんが当たっていること、ひと悶
「清川先生っ」 七夕祭りイベント当日の午後二時半を回った頃。慌ただしく準備をしている私の下に、エプロンを身に着けた小倉昌磨(おぐらしょうま)君のお母様がやって来た。「当番の羽鳥さんが、まだ来ていません!」 ええええ…うそーぉ……。「なんど連絡しても出られないんです! 清川先生からも連絡を取って頂けませんか?」「はい、承知しました」 露店は三時から開始される。あと三十分も無い。 縁日の準備を行っている園庭、それからさくら幼稚園に隣接する離れの遊戯ホールをざっと見たけれど、どこにも聖也君や羽鳥さんの姿は無かった。欠席という話も聞いていない。 慌てて職員室へ駆け込み電話を掛ける。ワンコール、ツーコール、スリーコール…出ない! 三度繰り返したが電話は全て留守番電話に繋がってしまったので、最後の電話に『当番の時間を過ぎても来られないから至急連絡が欲しい』とメッセージを吹き込み、受話器を置いた。「小倉さん申しわけございません。羽鳥さんはお電話に出られないようで、出来る限り私や他の職員がサポートに入るようにします」 聞けば今、彼女が一人で準備をしているという。見かねた担当でない別のお母様方が手伝ってくれているとか。ご立腹の小倉さんに頭を下げて私は奔走した。 ただでさえ足りていない人数で回さなきゃいけないのに、急に一人抜けられてしまったので、段取りが狂ってしまった。 彼女が居ない分、店番を掛け持ちしながら午後五時まで何とか乗り切った所で羽鳥さんが聖也君と一緒に現れた。しかも羽鳥さんは聖也君と同じく浴衣を来て、ばっちり髪の毛やメイクもセットした状態で現れた。――なんなの、この人。 今日は七夕まつりだから、最後に園児が一生懸命練習した踊りを披露するため、子供たちは全員浴衣で来ることになっている。保護者は関係ない。しかし羽鳥さんはキメキメの浴衣とメイクで現れたのだ。「羽鳥さん!」 私は大急ぎで彼女に詰め寄った。「今までどこへ行っていらっしゃったんですか! 今日、当番で二時集合とお知ら
「集合時間はとっくに過ぎています。羽鳥さんがいらっしゃらなかった分、他のお母様方が小倉さんを手伝って下さって、大変ご迷惑がかかっています。今からお詫びして担当のお仕事を全うして下さい。そうでないと困ります」「清川先生が困っても私は困らないわ。聖也とお祭りに回ることを楽しみにしていたのよ! その楽しみを奪おうって言うの?」「ですから――」「もういいでしょう。後にして」 話をしている最中だったのに、羽鳥さんは私を押しのけてその場を去ってしまった。あまりの自分勝手さに頭が真っ白になり、つい追いかけるのが遅れてしまった。その隙に彼女の姿を見失ってしまった。 見回すと、スタスタと前方を歩いて行く羽鳥さんは園入り口からすぐの店――おめん屋の前で立ち止まっていた。私は慌てて追いかけたが声だけが聴こえてきた。「小倉さん、どうも」「羽鳥さん! 一体なにをされていたんですか! もう五時を回っているんですよ!!」 小倉さんの怒った声がおめん屋の方から聞こえて来る。 彼女が怒るのは当然だ。しかしこんなところでモメさせるわけにはいかないので、すぐに走って追いかけた。「清川先生が私の代わりに店番をしてくれますから」「はあぁっ!? 羽鳥さん、貴女ね――」「そういうことだからあ、おめん一つ下さい。聖也、好きなの選んでいいわよ」 「――羽鳥さんっ。お待ち下さい」 私は彼女に呼び掛けた。あまりの身勝手さに身体も声も震えてしまう。 大声で怒鳴ったりしないように、必死に自分の気持ちをセーブした。私が問題を起こすわけにはいかない。 「お待ちください。まだ話は終わっていませんよ。小倉さんに謝って――」「しつこいなあ! 清川先生が私の代わりに当番すればいいでしょっ。いつも私に迷惑かけているんだから、こんな時くらい役に立ちなさいよ!」 捨て台詞を浴びせられ、プイ、と顔を背けられ、羽鳥さんはおめんのチケットを受け取り台に叩きつけると、聖也君の手を引いて彼女は行ってしまった。
全てを終えた帰り道、なんとなく話を聞いて欲しくて玄さんにメッセージを送ってみた。しかし既読にはならなかった。暇だと言っていたお店は土曜日だから忙しいのかも。 時間が合えば飲みに行こうと思ったけれど、返信が無いなら仕方ない。そのまま家に帰った。 ゆうた君には当たり障りの無いメッセージを送ってみたが、こちらも既読にならなかった。本当の彼氏でも無いし、ただマッチングアプリで見知っただけの関係なのだから、落胆することも無い。 こういう時に話を聞いてくれる彼氏がいてくれたらなぁ、と切に思う。 胸の内を誰かに聞いて欲しくて、同調して欲しくて、SNSの方に『今日大変な事があった。生きていくのが辛い』と思わず書いてしまった。すると、あおいChanが『因果応報という言葉があります。悪いことをした覚えはありませんか?』とリプライ。 因果応報? 私、別に悪いことなんかしてないのに。 どうして見ず知らずの人に、そんな風に言われなきゃいけないの? つまらないこと、書かなきゃよかった。 でもこれがネットの世界。求めている意見と違う反応が来ることだってある。面と向かって言わない分、悪意や本音が曝け出されるのだ。 辛いなあ。 普段なら流せる所なのに今日はダメージが大きく、思わず涙が零れた。 あおいさんは私がSNSに記事を投稿するとすぐに『いいね』や『コメント』をくれる。好意的なものが多いがしかし、そのスピードが尋常ではないから少し怖い。 今の投稿もそうだ。ただの愚痴なのに、投稿してからほんの一、二分で今のコメントが入った。 私を気に入ってくれたのは嬉しいけれど、粘着質な気もする。 もうSNSに記事を投稿するのはやめよう。無視するのは気が引けるけれど、この先続けなければいい。いつもは彼女へすぐ返信をしていたけれど、返さないことにした。 普通に仲良くなりたかったけれど、ネットの世界はリアルのように顔も見れないから、悪質な本音が流れてしまう。あおいさんは『気を付けなさい』と私を戒めるつもりだったのかもしれないけれ
「幼稚園のメニューには牡蠣の入ったものは全然出ないし、プライベートでも食べないようにしていたから、つい忘れてた。牡蠣を食べて気持ち悪くなっちゃうって、どちらかと言えばアレルギーに近いような気がする」 この前ゆうた君とお好み焼きを食べた時、久々にしんどくなった事を思い出した。「先生にも苦手があるって言うのは、園児に言えない秘密だな」「そうそう。バレないようにしなきゃ。威厳が崩れちゃう」「眞子の話を聞いていると、幼稚園は毎日楽しそうだな」「うん。楽しいよ。子供たちは可愛いし、もうすぐお泊り保育なの」「どんなことするの?」「宿泊施設に一泊するんだけれど、ついたらまず宝探しをするの。いっぱい遊んで、カレー作ってみんなで食べて、夜はキャンプファイヤーとか。次の日は想い出の写真を入れるフォトスタンドを手作りするんだよ」「へえ。どれも楽しそうだ」 男の人はこういう話に興味はないと思っていたのに玄さんは違うみたい。興味ある感じで私の話を聞いてくれる。嬉しいな。「園外だったら、モンペの攻撃も心配しなくていいな」「まあね」「どうした。なにかあった?」 思わず浮かない顔をしてしまった私を心配して玄さんが聞いてくれた。丁度いいから手紙の件を相談してみよう。「あのね、玄さん。実は園に嫌がらせの手紙を毎日入れられているの」「えっ」 予想外の言葉に彼は切れ長の瞳を開き、驚いた。「誰宛てとか特に無いけれど、多分私に向けてだと思うの」「どうして眞子だって解るんだ?」「犯人に心当たりがあるから」「心当たりって…まさか、モンペが?」「ううん、違うよ。直接の知り合いじゃないけれど、うっすら知っている感じの人につけ狙われている感じ」「複雑そうだな」「相談に乗ってくれる?」「いいよ。アドバイスできることがあるかもしれない」 そう言ってくれたので、友人男性の別れた彼女に勘違いされて攻撃された翌日から、その嫌がらせ手紙が入るようになった詳しい経緯を語った。玄さんは私の話を真剣に聞いてくれた。犯人があおいさんという女性であると思うという自分の考えも。「その彼女に眞子の自宅は知られているのか?」「わからない。でも、知られてないと思う。家に手紙は届かないの。幼稚園だけ」「心配だな」 玄さんは長い指を顎に当て唸っている。私の相談ごとを真剣に考えてくれているんだ。
週明けの月曜日に、私はそのことを別の職員から聞かされた。 ブスが二股かけている、ビッチを辞めさせろ、等、手紙には誹謗中傷に当たる記載があったらしい。それを聞いて、思い当たるのはつり目の彼女。 あおいさん――ゆうた君とはもう関係なくなった私に、ここまでするの? でも、おかしいな。どうして私がこの幼稚園で働いているって知っていたんだろ…。 もしかして、何らかの方法で職場を突き止めたのかな。本当に怖い。 SNSの通知はもう既に切ってあるけれど、恐らくとんでもない数のダイレクトメールが彼女から届いているだろう。内容は誹謗中傷だろうな。 SNSは怖くてもうログインしていない。折角時々友達と繋がったり、リアルでない仮想の世界の友人とも仲良くなれたりして、楽しかったのに。 考えるのに疲れてしまった。今年はクラス担任としても辛いし、プライベートまで辛くなってしまうなんて。 もう、全部やめたいなぁ。 私、何も悪い事していないのに・・・・。 でも幼稚園にまでやって来て、わざわざ手紙入れるなんて酷い事をするかなぁ、と考えてみるけれど、ゆうた君に粘着しているあおいさんなら、迷惑を省みずやってしまうのかも? 誰に相談したらいいのかと思っていたら、明日は玄さんと約束している日だ。ちょっと相談してみようかな? 翌日。待ち合わせした駅で玄さんと再会。通行人も振り返る程のイケメンぶりは相変わらず。 本当にこんな人と知り合いになれたのか。なんかすごいな、マッチングアプリって。普段だったら絶対に知り合いにならない人だもん。「眞子」 名前を呼ばれ、爽やかに笑う玄さんに心はトキめいてしまう。 ああ…嫌な気分とかそういうの、全部吹っ飛んじゃうなぁ。「玄さん、会えて嬉しい」「そっか。俺も嬉しい」 危うく本気にしそうになるが、こんなのぜったい社交辞令。イケメンが庶民に会いたいとか、そんなわけ無い。真に受けないようにしなきゃ。「で? 眞子は俺と付き合う気になった?」「まだだよ。何度かデート
彼女が差し出した画面には私がホテルのバイキングで食事をしているシーンがバッチリ顔出しで映っている。相手はわからないけれど、このホテルは確かTakaさんと行った蓮見リゾートホテルだ。 この写真はどうやらSNSの投稿記事の一部のようで、ハッシュタグには『#Mさん』『#僕の彼女』『#運命の女性』『#探しています』『#早く会いたい』等と書いてあった。 なにこれ、気持ち悪っ…。 これを投稿したのは、きっとTakaさんだ。しかも私の写真隠し撮りして勝手にSNSに上げてるの? 信じられない!「Mさんって貴女のことよね。それにこの投稿者は、貴女のことを『運命の女性』って探し回っているのよ。勇太に付きまとっているウザい女だから何とかして、って言っておいたから」「言ったって…無断で私のSNSの情報をこの人に教えたの!?」「付き合っているんでしょ?」「そんなわけないよ。勝手なことしないで!」「勝手はどっち? 勇太とムーミンカフェに行って、スカイツリーでデートまでして、どこまで男をたぶらかせば気が済むワケ? もう彼氏いるんだから、勇太にちょっかい出さないで!」 つり目の彼女は私を物凄く睨んでくる。 どうしてこんな展開になっているの?「私、ゆうた君とも、この人とも付き合ってない。誤解しないで」「とぼけてもムダ。同じ日の同じテーブルで写真アップしてるじゃない。位置情報も同じだし。ムーミンカフェの時もそう。貴女のSNSはずっとチェックしているからわかるもの。たーくさん書き込みもしたし、ね?」 待って。ずっとチェックしてるって…。 しかも書き込みまで…。まさかこの人―― 「その顔、私が誰だか気付いたようね?」 彼女は――あおいさんだ! だから私が羽鳥さんの事で疲弊していた時、やたら攻撃的だったんだ。 あおいさんがゆうた君の彼女だったなんて。だからゆうた君と出かける私が面白くなくて、チェックしていたんだ。「私はゆうた君から、女生徒は誰とも付き合っていないと聞いたわ。あおいさんのような
――そうか。聞いておいてよかった。あと、苦手なものや食べられないものはあるか?(玄) えっ。そんなの聞いてくれるんだ。 有難すぎる気遣い。この人絶対モテるよ。一体何者なんだろう?――牡蠣だけが食べられないけど、あとは何でも食べるよ!(M)――牡蠣ね。オーケー。それは外すようにする。じゃ、来週の都合のいい日にしよう。眞子のスケジュール教えて。(玄) 私は玄さんに空いている日を送り、次の約束が決まった。今週の金曜日は残念と思ったけれど、別の日に決まって嬉しくなる。また、会いたい。 でも、玄さんは謎だらけだ。 お互いなにも知らない者同士。だからこそ食事の前に苦手なものや食べられないものを聞くのはマナーのように思えた。 ゆうた君は決して悪気があったわけじゃない。美味しいものを食べさせたい、喜んで欲しいっていう気持ちは嬉しかったし、牡蠣がちゃんと食べれるなら、なんの問題もなかった話。私もきちんと伝えなきゃいけなかった。遠慮しちゃったから結果こうなっただけ。 次、ゆうた君に会ったらちゃんと言おう。 理世ちゃんは同時進行でもいいって言ったけれど、やっぱり私はそんな器用な事は出来ないし、玄さんと約束が被って残念と思ってしまうのは、ゆうた君に失礼だ。 それで気付いた。私、玄さんが気になっている。 まだ、好きとかそういうのじゃないけれど、もっと話をいっぱいして、どんな人なのか知りたいって思う。 玄さんのことを考えていると、ピロンピロンと通知が入ってきた。 最近SNSの方に大量のメッセージが届くのだ。あおいさんに心ない事を言われてから嫌になってあれ以来触っていないけれど、ダイレクトメッセージが鬼のように届く。見るのもいやだけれど、初期登録した時にメッセージが入ると通知メールが届くようになっていて、それが次々と入ってくるのだ。 更に幼稚園でも、私宛の無言電話や真っ白の手紙が投函されるようになった。些細なことだけれど、嫌だなと思っていたら、ゆうた君と約束していた金曜日、事件が起こる。 &n
――眞子ちゃん、明日時間ある?(ゆうた) 明日の予定かぁ…。園で会議も無いし、定時で上がれそう。大丈夫とメッセージを送った。――デートしない? 映画でも見に行こうよ(ゆうた) 映画かぁ。遅くなるから週末がいいかな。――じゃあ、仕事の差しさわりが無い金曜日がいいな! その代わり、明日はご飯でも行かない?(M)――オーケー。美味しいもの食べにいこう! という経緯があり指定の駅で待ち合わせ。今日はゆうた君オススメの美味しいお好み焼きやさんに連れて行ってくれるって。嬉しいな。 彼を待っていると、カジュアルルックなゆうた君が現れた。待ち合わせの駅からすぐのお店に連れて行ってくれた。狭くて昭和感のあるレトロなお好み焼き屋さんだった。ソースの香ばしい匂いが漂っている。食欲増進の匂いだぁ。 小さなテーブルに鉄板が敷かれた席に案内され、ゆうた君と向かい合って座った。彼イチオシの海鮮ミックスを二枚オーダーしてくれた。「ゆうた君は仕事帰り?」「ううん。今日は休みだったんだ。久々にジム行って楽しかったよ」 あ、だからカジュアルルックなんだ。仕事帰りの服装には見えなかったので納得した。「ゆうた君は、どんなお仕事しているのか聞いてもいい?」「ああ。なんかITの雑用みたいな仕事してるよ。エンジニアって聞こえがいいように言いたいけれど、仲間内でわいわいするような、なんかそんな仕事。社風も自由だし、結構ゆるい会社なんだ」「へえ、すごいね。私はパソコン苦手」「こっちからすれば幼稚園の先生の方が大変そうだって思うよー。よく聞くけどさ、やっぱ実際モンペとかいるの?」 い ま す よ ぉ! 「私の担当クラスにとんでもないモンスターがいるよ」「わ。それはご愁傷様。ちなみにどんな人?」「一言では言えないなぁ。とにかくモンスター! この前なんか、幼稚園のイベントで自分が担当している当番をサボっちゃって。無茶苦茶だったの」「それは酷いねー。あ、お好みきたよ」 ゆうた君の興味が反れてお好み焼きに集中してしまった。自分で話を振っておいて…と思ったけれど、そんなに長く続ける話でもないし、仕方ないか。 でもきっと、玄さんだったら続きの話も聞いてくれそうだ。あの人いつも短い文章だけれど、私を気遣うメッセージをくれるから――なんて…比べちゃいけないよね。彼には彼のよ
「それでっ。どうしたんですか!?」 さくら幼稚園で理世ちゃんに会った際、玄さんから『付き合おう』と言われたことを報告した。そうしたら歓喜の大声+詰め寄られ攻撃を受けた。「お付き合いされるんですかっ。そのブラックカード王と!」 ホルモン焼き屋でブラックカードを出す男をどう思うかと聞いたら、断然アリです、という彼女らしい回答だった。「とりあえず、お付き合いする前のお試し期間が欲しいってお願いしたよ」「ええー、そこいっちゃっていいのにー。もう眞子先輩、シンデレラガールじゃないですか! ブラックカード王と恋に落ちる! いいですねー!」「でもね、理世ちゃん」私は玄さんに対する懸念材料を述べた。「彼の本名や職業も知らないんだよ? 付き合おうって言われたのに名乗ってくれなかったもん」「そんなのなんとでもなりますよ」 や、それはならないよ、理世ちゃん。「向こうだって私のこと全然知らないのに、突然付き合おうってなるかな?」「それがなるんです! いいじゃないですか。そういう出会いっ。イケメンでしかもブラックカード持ちなんて、どこかの御曹司だったりしてー」「で、でも年収五百万円以下って書いてあったよ」「そんなのデタラメに決まってます! だって考えてみてください。年収一千万円以上あります、って書いたら、どれだけの応募が来ると思います? 謎のカード王は、きっといいお肉ばっかり食べ過ぎて、サンマみたいな魚も食べたいと思っている――つまり、庶民と付き合いたいってことですよ!」「まあ、庶民だけど…」 サンマなんて、なかなかの言われようだ。彼女が別に私をディスっているわけではないのはわかるけど…。 「お試し期間なんて設けないで、とりあえずお付き合いを考えてもいいんじゃないでしょうか」「うーん…」 私の考えが古いのかな。マッチングしてフィーリングが合えば、そのまま付き合うっていうのもアリな世の中なんだよね。今はきっと。「とりあえず次回は玄さんがエスコートしてくれるって。デート
「えっ、使えない?」彼の端麗な顔に焦りの色が浮かんだ。 事件が起こったのは、お会計の時。 玄さんが「俺が払うから」と漆黒のカードケースからブラックカードを取り出したの! ブラックカードなんて初めて見た。こんなものを持っている玄さんは、何者? それより、ホルモン焼き屋でブラックカード使って支払おうとしている人、初めて見た。「ごめんなさいね。うちでカードは使えないよ」 この経緯があり、先程の玄さんの焦った顔に戻る。「じゃあ、こっちは?」 スマートフォンを取り出す。アプリ支払いってことかな?「スマートフォンをどうするの?」さっちゃんは首を傾げている。「アプリで支払いは…タッチ決済とか」「よくわからないけれど、現金主義なもので。現金で払っておくれ」 まずい、という顔になった。どうやら玄さんは現金を持っていないらしく、非常に焦っている。「さっちゃん、一旦私が払うから。これで」 一万円を渡し、会計をしてもらってお釣りを受け取って店を出た。これ以上玄さんに恥をかかせられない。「眞子、ごめん。俺が出すって言ったのに。少し待っててくれるか。お金をどこかで下ろしてきて、食事代金払うから」「いいよ、そんなの。最初から奢って貰うつもりじゃなかったし、ここのお会計、安いから私でも払えるもの。今日は楽しかった。だからそのお礼。ありがとう、玄さん」 談笑してすっかり打ち解けた私たちは、敬語が取れた。 今日はビールを二杯と、レモン酎ハイを一杯飲んだから、顔が赤くなっている。身体も熱くて、ほろ酔い気分だ。「まさか、カードやアプリまで使えない店があるなんて。完全に俺のリサーチ不足だった。今度埋め合わせさせて欲しい。このままじゃカッコつかないし、ほんとごめん」 こんなイケメンでも恰好つかないことがあるんだ。現金払いしか受け付けないっていうようなお店、彼は初めてなんだ。玄さんの言葉に、嘘は無かった――「もう気にしないで。それより次、またどこかに食
「眞子。このクイズ、一生当てられそうにないからもういいだろ」「えー、気になりますよぉー」 と、ハタから見ると仲睦まじい様子に見えたらしく、熱々カップルに熱々ホルモンお待ち、とさっちゃんができたてのホルモンを持ってきた。「わ、うまそう」 結果玄さんのお店の話は打ち切りになってしまった。蒸し返すとしつこい女と思われるから、聞きにくい。結果謎のまま。「ビールおかわりしましょうか。さっちゃん、ビール追加。生で!」「はいよー」 彼女はまたニヤニヤしながら親指でグッドポーズを取って、ドリンクを作りに行った。生ビールなのですぐ目の前に置かれる。焼きたてのホルモンとビールを胃に収めると、最高の一言しか出ない。「めちゃくちゃうまい」 おまかせホルモン五本セットは聞き馴染みのない部位を詰め合わせたものだけれど、おいしすぎてあっという間になくなった。狭い店内はすでに混雑している。時間がかかると思ったので、私のおすすめチョイスと玄さんの気に入っていたシマチョウ串を入れて、十本ほど追加注文した。「ん、これは…?」 他愛もない話を交わしていると、焼き上がったホルモンが置かれた。見慣れない凹凸のある部位が刺さった串を不思議そうに見つめる玄さんは、すごく純粋な目をしている。まるで幼稚園児の子供と変わらない。面白い人だ。 「眞子、この凹凸のある気持ち悪いやつ、なに?」「これは【ハチノス】です。結構おいしいですよ」「え、これ、食べるの?」 ピーマン苦手な子が嫌な顔をするのと同じような雰囲気で玄さんは顔をしかめた。ふふ。本当にうちの園児みたい。「大丈夫。先生がまず見本を見せてあげるよ。ちゃんと食べられるから」 思わず園児に語る口調になってしまい、不安にさせないようににっこり笑って美味しそうに食べて見せる。「んー、おいしい! こんなに美味しいのに食べられないなんて勿体ないよ。要らないなら、玄君の分も先生が食べちゃおうかなー」「だめ」 私に取られると思った玄さんが、思わず皿を遠くへやり、ハチノスを掴んで食べた。渋面だったのは最初だけで、咀嚼するごとに表情の変化が訪れる。「うまいっ」「でしょ? 見た目は確かに気持ち悪いですが、食べないなんて勿体ないです」「なんか、眞子先生にいいようにやられた気がする」「ふふ。毎日こうやって子供に苦手な給食を食べさせているん
「辛い時は声をあげていいと思うけど…それができないから、俺みたいな得体のしれないヤツに愚痴ってるわけだし、反論できないから困っているんだよなぁ」 こちらの気持ちをぜんぶわかってくれる玄さんが凄い。「でもな、眞子。喧嘩をしろとは言わないけれど、出来ないものは出来ないと、はっきり言った方がいい。不当な要求についてもだ。じゃないとモンペはどんどん付け上がる。人生の先輩として、アドバイスしておく」「はい。ありがとうございます!」 そっか。やっぱり出来ないことや理不尽なことは、強くつっぱねてもいいんだ! 次は頑張ろう。もっと上手に立ち回りたい。「素直でよろしい」 にこっと玄さんが笑った。この人、イケメンな上に性格超いい! こんな人とお付き合い――って、短絡的に考えちゃダメ。I.Nさんの二の舞になるかもしれないし! でも婚活アプリ登録しているくらいだから、出会い求めて――って、こんなイケメンに出会い要る? 婚活のチャンスなんか幾らでも転がってそうだし、わざわざ素性の知れない女性と繋がりを持つなんて、要らなくない? きっと彼には秘密があるんだ! 解らないけど! なんとなく!!「次があった時、玄さんのアドバイスを思い出して頑張ってみます」「そうしてみて」「はい」 あ。そっか。玄さんとは深い仲にならなかったらいいのか。 イケメンの男友達って、今までいなかったからちょっと優越感あるし。「あの、玄さんのこと、聞いてもいいですか?」「そんなに語れるものないけど」 なんかクギ刺されてる感ある?「お店は最近どうですか? お客様増えましたか?」 先ずは気になっていたことを聞いた。「あ、うん。なんか急に客が増えた。最近連日忙しい」「そうなんですね! それは良かったです!」 玄さんのお店が繁盛していることを聞いて、とても嬉しく思った。「すごく喜んでくれるんだな」「はい! モチロンです! 愚痴友ですから。自分のことのように嬉しいです」「はは、そっか。眞子がそう言ってくれたらいい気分だ」 玄さんは照れ臭そうに笑ってくれた。きゅんとする笑顔。可愛らしい一面もあるんだ。「玄さんのお店ですが、どんなお店か教えてくれませんが、なにか理由があるのですか?」「いや、別に。じゃあ聞くけど、眞子は俺の店、どんな店だと思う?」